Copilot StudioとPower Platform、ネオシステムの伴走支援で実現したプレ査読エージェント

導入の背景
医薬品の研究開発から市販後に至るまで、製薬業界では膨大な量の専門文書が作成されます。これらの文書は厳格なレビュー(査読)が必要ですが、従来は人手に頼ったレビューが中心で、担当者への負担や指摘漏れ、スケジュールの遅延が課題となっていました。第一三共株式会社様(以下、第一三共様)でも、論文投稿前の社内チェックや薬事関連書類の精査に多大な時間と労力を費やしており、レビュー品質のばらつきも懸念されていました。
第一三共様は社内のデジタルトランスフォーメーション戦略の一環として、生成AIの活用に早くから取り組んでいます。そこで、文書レビュー業務に生成AIを活用し、負荷軽減と品質向上を両立するソリューションの検討を開始しました。株式会社ネオシステム(以下、ネオシステム)からは現場密着型の技術支援(伴走型支援)を得て、文書の「プレ査読エージェント」構築プロジェクトが立ち上がりました。
導入の決め手
ソリューション選定の決め手は、Microsoft Copilot StudioとPower Platformの強力な組み合わせでした。Copilot Studioは大規模言語モデルを用いたAIエージェント開発環境、Power Platformは業務アプリのローコード開発基盤であり、これらを組み合わせることで、既存の社内業務アプリケーションに生成AIの機能を容易に組み込めることが判明したのです。第一三共様の現場担当者(市民開発者)が中心となり、これらのツールを活用して業務アプリを開発し、その中にAIによる自動査読機能を実装するというアプローチが取られました。
さらに、ネオシステムから派遣されたFDE(Forward Deployed Engineer)の伴走型支援により、プロジェクトは円滑に進みました。FDEは単なるプログラマーではなく、顧客の業務プロセスや運用ルールを深く理解し、AIシステムを現場で実用できる形に落とし込み、成果が出るまで伴走するエンジニアです。初期段階からFDEが現場のヒアリングを重ね、要件定義と即座のプロトタイピングを繰り返すことで、現場ニーズに即した解決策をスピーディーに形にできました。これにより、開発途中の「出戻り(要件の齟齬による手直し)」が最小限に抑えられ、非エンジニアのスタッフも含め、チーム全体で納得感のあるシステム開発が実現しました。
導入の効果
開発されたプレ査読エージェントは、自律型AIエージェントとして文書レビューを自動化し、現場に大きな効果をもたらしています。具体的な特長は以下の通りです。
- 自律型エージェントが文書を自動レビュー:研究論文や申請資料のドラフトをAIが読み込み、内容の構成や一貫性、専門用語の整合性、ガイドライン遵守状況などをチェックします。AIは不備や曖昧な表現を検出して改善提案を自動生成し、指摘漏れの削減とレビュー観点の標準化に貢献しました。
- キャンバスアプリから依頼登録・結果確認:第一三共様の市民開発者が作成したPower Appsキャンバスアプリを通じて、ユーザーは直感的な操作でプレ査読を依頼できます。文書ファイルをアップロードしてボタンを押すだけで、AIエージェントがバックグラウンドで査読を実行し、結果はアプリ上に即時表示されます。これにより、現場の誰もが特別な知識を必要とせずAIレビューを活用できる環境が整いました。
- 生成AIによる仕様書の自動作成:Copilot Studio上でエージェントを開発する際、AIがシステムの仕様書やプロンプト文を自動生成し、文書化作業の手間を大幅に削減しました。開発チームはドキュメント作成に時間を取られることなく、より高度なエージェント機能の開発に集中することができました。
- スピーディーな開発サイクルと高品質の両立:FDEの支援により、開発プロセスにおいても「MVP(Minimum Viable Product)の構築→評価→改善」のサイクルを短期間で数多く回すことが可能となりました。要件は初期段階で「すぐ実装」「要検証」「見送り」に分類され、コア機能に焦点を当てた設計によってアウトプットの質とスピードの両立が実現しています。また、Copilot Studioの進化にも対応しながら、短い開発サイクルで設計・構築・検証を繰り返す実践モデルが確立されました。
結果として、プレ査読エージェントの導入後、文書レビューにかかる時間は大幅に短縮され、専門スタッフが指摘対応や品質向上に費やせる時間が増えました。AIは定型的なチェックを網羅するため、レビュアーは本質的な内容のブラッシュアップに専念できます。現場からは「AIのおかげで見落としが減り、自分たちのスキルアップにもつながっている」という声も聞かれています。
現場の声
「今回の伴走支援により、スムーズな開発だけでなく、私たち自身のスキルアップにもつながり感謝しています。特に、私たちのやりたいことをネオシステム様にご理解いただけたことが、良い成果物につながったと感じています。今後とも連携を深めていければ幸いです。」
— 藤元様・田中様・平松様(第一三共株式会社様)
「第一三共様の現在の業務プロセスの現状(AS-IS)と理想像(TO-BE)を丁寧にヒアリングさせていただき、業務プロセスにフィットする提案ができたのは、FDEの進め方による成功例だと思います。今後も皆様の業務にフィットした提案をしていきたいと思います。」
— 神谷・雨宮(株式会社ネオシステム)
今後の展望
第一三共様では、本プレ査読エージェントの活用範囲を順次拡大していく予定です。研究部門だけでなく、開発・薬事・品質保証など文書レビューに関わる他の部署にも展開し、社内全体のドキュメント業務効率化を図ります。さらに、今回培ったノウハウをもとに、ネオシステムでは本エージェントを他の製薬企業や医療機関へ導入支援することも視野に入れています。
また、ネオシステムは、Copilot StudioやPower Platformの進化に伴い、エージェント機能の拡充や新たなユースケース探索を共同で推進していく予定です。両社は引き続き緊密に連携し、AIを活用した業務革新のさらなる可能性を追求していきます。